>空虹桜<
大きなソーラーセイルをはためかせ、スピカへ向かう恒星間連絡船の舳先に、三本足の白い烏が描かれていることはあまり知られていない。他の恒星航路と比べ、宙難事故が少なく、船員の離婚率が高いのは、この白い烏のおかげだと船員たちはいう。
しかし、現代において、描かれる真意は完全に消失してしまったのでこれは単なる統計、あるいは迷信に過ぎない。舳先に黒い烏を描いたひねくれた、あるいは事実に誠実な船はたいてい青いが、これも単なる統計に過ぎない。
真意は完全に消失してしまったのだ。
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>白縫いさや<
崩れた城壁跡が、かつてこの地に都市が存在したことを歴史に主張している。
行きなさるか。老人は一面の麦畑に問いかける。数百年もの間、この地を鎮護し続けた英霊たちは頷く。それぞれの手に彼らが最も愛する者の手を納めて。
第一陣が麦畑の海に浮かぶ船に乗り込んだ。帆を張れえ、と声を荒げるのはかつて陶磁器の交易で莫大な利益を上げた商船の船長だ。最初の祖先は舳先に立ち名残惜しげに自身が開拓した土地を眺めていた。程なくして甲板と地上を結ぶリボンが断たれ、船はゆっくりと推進し始める。帆は冷たく澄んだ廃墟の風を一身に浴びてふくよかで、月光を浴びてクリーム色に染まる。老人はまだ数多く残る霊と共に、船が山の彼方に消えるまで見送った。
一週間後、最後の一団が船に乗り込む。船を出すぞおお。と、そのとき最後の一人が駆け足で乗り込んでくる。人を掻き分け妻を捜しだすと、男は息子を見上げ「出してくれ!」と叫んだ。そして人々は無人となった愛すべき故郷を後にする。黄金色の麦畑は次第に遠ざかり、星空がぐんと近付く。男は手にした麦の穂を妻に見せ、向こうで植えるんだ、と嬉々と語って聞かせる。
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