雑感・レヴュ集
メタセコイア
どうせ見るならこの一本

試合名記述者記述日
2004サントリーチャンピオンシップ第2戦
浦和レッズ対横浜・F・マリノス
空虹桜2004/12/23

アタシは、思い出したかのように声を上げた。
山岸!山岸!山岸!
2回目の途中にドゥトラはゆっくりと動き出し、ゆっくりとしたボールを蹴った。
PKまで粘られた時、こうなる予感はあったけれど、でも・・・

優勝して浦和に帰ってくるつもり満々だったから、浦和駅のロッカに荷物を預け埼スタへ。
16時半頃に埼スタへ着いたら、予想通り大量の人がいた。
いつも思うけど、浦和美園駅から埼スタへの道すがらは、本当に祝祭の空気に溢れている。
百年構想の真価は本来こういうところにあるのだ。
それにしたって、赤と青のセットマフラなんて売ってる外人がいたけど、そんなの買うわけ無いよね〜
MDPを買って、長谷部のTシャツは予想通り無く、当初の予定通り、啓太のTシャツを買う。
バカみたいに並んでいるので、どうしようかとかなり悩んだけど、結局第2ステージ優勝記念グッズ販売の列に並ぶ。
暗くなっていく空。埼スタの外壁がライトアップされ、その向こうにはピッチ・・・
どうも手際が悪い記念グッズショップのせいで、90分ほど並ばされ、ようやくTシャツを買う。
スタンドで食べようと、浦和の伊勢丹で買ったパンは、並んでるウチに食べてしまった。
それにしたって、アタシみたいな人間は一人でも平気で来れるけど、一人でここまで来たマリノスサポって怖くないのだろうか?この赤い集団の中で、一人だけ青いことは?
時刻は18時手前。ちょっと並んでスタジアムに入り、トイレへ寄って、ビールを買って席へ向かう。
バックスタンドほぼ真ん中。
チケットの印字を頼りにキツい階段を上っていくと・・・一番上じゃん!アタシの席!!
正直ちょっと引いたけど、視野はバッチリ。いい席だ。
後ろじゃロッソの皆さんが風船を膨らませ、カップ受けには赤い旗。
ビールを飲みながら、スタジアムを見回すと、たしかに三菱の広告が並んでいる。
マリノスの一角だけ青く、キャッキャ言ってるけど、それにしたって赤い。
「GO REDS GO」がはじまって、席に座ったアタシはビールを飲みながらMDPを開く。
しかし、文字が読み取れない。意味が頭に入らない。理解できない。
よく考えたら、ホントにホントのホームでアタシはレッズの試合を始めて見るのだ。恥ずかしながら。
世界で一番高いタワーなんて、埼玉には微妙だなぁ〜
なんて思いながらいると、大きな声。ブーイング。マリノスのGK陣が出てきてアップをはじめた。
もちろん、アタシもブーイングに参加する。
なんのためにスタジアムにいるのか?
もちろん闘うためだ。そのための儀式みたいなものだ。
少しして、山岸と都築が出てきて、バックスタンドの空気が一気にサポータとなる。
ロッソが何度か旗の振り時を説明に来たけれど、その声はまったく聞こえない。みんなにあわせて振ればいい。そう思った。
パーカの上から買った啓太のTシャツを着こむ。
またまたマリノスに続いて、レッズのフィールドメンバがピッチに現れる。「GO REDS GO」で選手一人一人のコメントが紹介され、
「サポータのみんなは心配しなくていい。勝つのは俺たちだ」
そんなアルパイの熱さに一人浮かれたのは秘密だ。
そして、エメルソンがちゃんといたことに安心もした。良かった。ちゃんと一緒に戦える。
スタメン紹介で、平川のスタメンに驚き、エメがいることに安心し、3トップの左が三都主かと勘違いして一人で動揺した。
そして、「We are DIAMONDS」
この曲を聴く度に、唄う度に、自分でもよくわからないテンションとなる。
もう一度唄えるだろうか?否、もう一度唄うのだ。勝って唄うのだ。

選手入場で赤い旗を振って、「PRIDE OF URAWA」の人文字には気付いたけど、自分のすぐ下でハートが描かれているのには気付かなかった。
いつものように、キックオフのホイッスルは応援に紛れて聞き取れない。もちろん、試合の細かい内容なんて覚えちゃいない。
「6万人の声」だから、どれだけかと思ったら、はじまってみるとバックスタンドはいつものようなテンションに落ち込む。
それを感じたのか、ロッソの人が最初にヴォリュームを上げる。
アタシもそれについていく。
第1戦と違って、前がかりに攻める展開。
必然、声を上げる機会は増えていく。
ブーイングのタイミングも、すぐに思い出した。
余談だけれど、闘莉王が急所攻撃でKOされたときには笑ってしまった。
おかげで、冷静に熱く戦えた。

三都主の直接FKがクロスバーの上をかすめてからは、試合中座ることが出来なくなった。
シュートが外れる度、天井を殴りつけ、気が付けばバックロアーの応援をアタシが仕切る。
45分はあっという間だった。
喉を潤すビールはとっくに空で、トイレに行った帰りに買って、席へ戻る。
勝てる空気。しかし、なにかがあわない45分。
手拍子しすぎたことが、ボンヤリと思い出された頃、マリノスの選手が出てきてブーイングをする。
しかし、すぐと静かになって、フラッグが大小の振られる。ゴール裏にはデカ旗3枚。
低く大きな声が、唸るようにスタジアムを満たしていく。
空気が、スタジアムが、心が、声が一つとなる。
まるで他人事のように、カッコいいと思った。
そして後半―

キックオフの押し込まれ方からいけば、あそこで投入すべきは達也よりも岡野だと思う。
ギドは、ずっとPKを覚悟していたのか岡野を投入しなかったけれど、でも、アタシは遠い昔にあの奇跡を見ていたから、岡野に期待していたし、岡野がピッチにいない優勝は、正直ちょっと思い浮かばなかった。
それでも達也が入ると流れはレッズに戻っていく。
けれど、時間は足りない。

後半29分。
中西にレッドカードが出た瞬間、たぶんスタジアムにいた6万人は全員得点を確信した。
そして、三都主のキックが弧を描く。
そこから先の15分はもうなにがなんだかサッパリ記憶にない。
もう5・6点入れるに違いないという根拠のない自信。
なにより、バックスタンドすらも一帯と化したスタジアム。
初めて、試合中にバックスタンドのサポを写真に撮った。
負けるはずがなかった。
このスタンド。この試合展開。このスタジアム。この空気。
どこをどう取ったって、負ける要素なぞ1つもない。
それなのに、闘莉王のヘディングシュートは・・・

実際、試合は勝ったのに、延長戦をやらなくてはならない。
しかたなくビールを買いに行ったら、もう売店を終わっていた。
それにしても、どうしてエメコールをしないのか?
そんな疑問を抱きながら、延長戦が始まる。
出なくなった声を無理矢理出す。ノドからじゃなく、腹から声を出す。
ピッチでヤツらは走ってるのだから、じんじん痛む手は折れてるものとして、叩き続けた。
それしかできないから。それしか一緒に戦えないから。
ここで点を取るのはエメしかいない。
ずっとそう思ってた。
しかし、それは叶わない。

あそこでエメは退場するはずがなかった。してはいけなかった。しかし、レッドカード。
エメで勝つから。エメとともに勝つから。それなのにレッドカード。
最後の15分は、バックスタンド側の副審にブーイングばかりしていた気がする・・・
だからPK戦。
山岸が煽るから、アタシたちはコールで答えるのだけれど、闘莉王はあっさり止められる。
達也も暢久も蹴らないPK。
なぜ?
そして長谷部が止められる―

途中まで開いていたノドはそのままに、アタシは腰を抜かしたかのように座った。
それとは反対に、少し前の男が歓喜の声を上げる。
青いなぁとだけ思った。
近くに友達でもいるのか、隣の席の男はさっさといなくなり、反対隣の母娘も帰り支度をはじめる。
けれど、アタシはなにも出来ず座り続けた。
頭はなにも考えていない。
目の前にあった変なデザインの優勝トロフィを手に出来なかった事実すらない。
自分でも吃驚するぐらいの放心状態。
セレモニがはじまって終わって。コールがはじまって終わって。ようやく選手がバックスタンドまで挨拶に来て、We are REDSのコールに参加できた。
ようよう回り出した頭が、帰らなくてはならないと主張し、アタシは啓太のTシャツを脱いだ。
浦和のロッカに預けた荷物はそのままに北海道へ帰ろうかなんて、3回思いつつスタジアムをあとにした。

これを書きながら、あの日のヴィデオを見直していると、ほんのり手の痛みがぶり返した。
全国放送なのに、ヤケに聞こえるアタシたちの声。声。声・・・
あの日のあの瞬間は、もう二度と返ってこないけど、何度だって作り直せる。
その向こう、世界はあるから―

浦和ほど、熱くなることはあるか?


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