雑感・レヴュ集
メタセコイア
どうせ見るならこの一本

試合名記述者記述日
浦和レッズ対レッズ歴代選抜
福田正博引退試合
空虹桜2003/06/18

本文中のリンク先には、アフィリエイトを含むことがあります。ほぼお金になってないですけど。

文学表現において、天気はもっぱら感情の隠喩として用いられる。
たしかに、この日の曇天模様は、彼の選手生活にピッタリ当てはまるものかもしれない。
けれど、それはあまりに当てはまりすぎていて、なによりカッコ良すぎる。
前日までの天気予報は雨だった。
しかし、しかし・・・

GET GOALが鳴りやまない

いろいろなところで、いろいろな言い方をしているが、ともかく、アタシは福田正博というフットボーラがいなければサッカーなんて見なかったし、浦和レッズをここまで愛することもなかった。
アタシにとって福田正博という男=サッカーのすべてだったし、刹那の迷いもなく「好きだ」と断言できる存在である。
何人かの友人・知人には
「福田引退したんだからレッズサポ辞めたら?」
なんて言われ方をしたが、“10年もつきあったんだから今さら”という気が強かった。
もちろん、福田ほどではないにしろ好きな選手がいるし、あそこまで狂えるサポータ集団が好きだから。

行きの電車の中からレプリカを着て歩いた。浮いてもいいと思っていた。
でも、さすがに通勤途中のオヂサマの視線は痛かったし、思っていたほど大宮−浦和美園間で赤い人間が多くなかった。
そう、案外ウチのサポは空気が読める連中だったのだ。
14時キックオフ(厳密には14:04)の試合にもかかわらず、アタシは8時過ぎに浦和美園にいた。
ホントに田舎で、カッコウが鳴く畑の中を歩く。
その向こうに見えた大きなスタジアムが埼玉スタジアム2002で、とりあえず暇つぶしに埼スタを一周歩いてみた。
それは、来るまでの道すがら、思ったほど赤い人間にあわなかったからで、チケットが売れ残ってるという話などから重ね合わせて、もしかして、ホントに空席だらけだったらどうしようか?という恐怖に襲われたからだ。
こっちはこの一週間、まともに仕事が手につかず、夢の中でまで福田の姿を見たってのに、お前らそんなもんなのか?
この時間からの行列なら並大抵のチームでも出来る。しかし、ウチのチームでしかできないことがある。
そりゃ、たしかにナビスコの時とはテンション違うかもしれないさ。
でも、でもさ・・・ だから、スタジアムに着いた直後に見えた行列でもまだ不安だった。
しかし、それはある程度杞憂に終わる。
なんだかんだいって、指定のクセして泊まり込んでるんだから。好きだぜ。ホント。お前らのそういうとこ。

北と南だと北の方が列が短かったから北ゲート側の列に並ぶ。もちろん、チケットは自由席。
9:30過ぎまでただ座ってて、ようやく営業をはじめた出店で遅めの朝食。
ポスタが付くの言葉に、しかたなく戸塚啓著「ミスターレッズ 福田正博」を買う。
最初はそんな買う気無かったし、どうせだったらDVD買いたかったんだけど、お金がさ・・・
MDPが11時発売だったから、それまでの間ひたすら読み続ける。
とうぜんというか、やっぱり泣きそうになる。
当初の予想とは裏腹に、福田に近くない人間が書いた本で、そのくせちゃんと福田を好いてくれてるのが感じられたから、好感触で、近くに並んでいた夫婦がMDP買ってこなかったら、たぶんアタシはMDP買い逃したんじゃないかと思うぐらいのめり込んで読んでいた。
小降りの雨が11時までの間に何度か降り、それをみんなポンチョや傘でしのぐ。
限定グッズは長蛇の列で、並ぶことが本質的に嫌いなアタシはすぐめげてしまった。
結局MDPだけ買って列に戻る。あとは列が動くまでひたすら、読む。
気がついたら列は2列どころか3列になり、周りはみんなMDPを読んでいた。
アタシは人目をはばからず泣きながら読んでいたし、周りにもなぜだか重苦しい空気が流れる。
なんなんだろ?この空気。とてもウチのチームとは思えない。
でも、それは決して悪いものではない。ただ・・・そう、自分たちが積み上げてしまった10年が、福田と過ごした10年が思ってたより熾烈だったことを改めて突きつけられてしまったのだ。
よく10年やったよ。
その自覚はなかったのに、改めて見返せば凄まじき10年。結局福田をてっぺんに登らせてあげられなかった10年・・・

福田正博というフットボーラにはいくつもの形容詞が当てられてきたが、「悲劇のヒーロー」が彼の歩んだ道のりをもっとも的確に形容している気がする。
ジーコが「日本一」と呼び、ヨーロッパ最高級のフットボーラであり、同時に浦和で福田とプレーをともにしたバインやブッフバルト、ベギリスタインやペドロビッチが「ヨーロッパで通用した」と口を揃えるFW。
そんな彼を擁してJ2落ちまでした浦和レッズというチーム。
ナビスコ決勝前に「ドーハ世代で自分だけが優勝を経験していない」と福田に言わせてしまったこと・・・
12時過ぎにはスタジアムに入り、なぜだか運良くアタシは前から8列目の右端あたりに座ることが出来た。
まだこの時点ではスタジアムの半分程度しか赤くない。
引きずる不安。泣き出しそうな空。
やっぱり高いビールを飲みながら、ずっと綺麗な芝生をアタシは見つめていた。
GK3人組がピッチに現れてアップを始めたのが14時過ぎ。
空から水が落ちてくる。
雨だ。
悲しい気持ちになりながら、傘を広げる。
まだ、試合は始まっていない。隣のカップルは席を外している。
傘を広げながら、ふとアタシは思った。
福田に雨はよく似合う・・・

理由はわからない。手帳にいつも入れているJリーグチップスの福田が雨に濡れているからかもしれない。
でも、日本人で一番最初に得点王を獲得し、世界で一番悲しいゴールを決めたのは福田だ。
もしかしたら、アタシたちサポータは、世界で一番エースストライカの涙を見ているかも知れない・・・

たしか、歴代選抜がピッチに出てきてしばらくして雨は止んだと思う。歴代選抜の中に小野がいたのはとても嬉しくて、同時に安心した。
正直、こんな日に代表をフランスに連れて行った協会を恨んだりもする。
あとで知った話だけれど、やっぱり伸二はいい男で、レッズサポで本当に良かったと思う。
気は早いけど、たぶんレッズ−フェイエだろう引退試合には意地でも行くから>伸二
キックオフまでにはすっかり雨は止んでいた。
やっぱり、福田正博はそういう星の元に生まれているのだろう。

引退して40代が何人か混ざっているにもかかわらず、歴代選抜が押し気味に試合を進め、見ているサポータ側は、選抜が勝ったらどうしようかとしばらく悩んでいた。マジで。
ブッフバルトが言ったからか、比較的コールは選抜よりで、でもやっぱりどっちつかず。
バインは突き出た腹を揺らしながら全力疾走をし、ブッフバルトは今でも十分通用する高さで両サイドから上がるセンタリングをバシバシ弾く。
ペドロビッチは平川を削ってケガさせやがるし、岡野はいつの間にか上手くなったセンタリングをガンガン福田にあわせる。
楽しかった。
もっと声を大きく。
楽しかった
選抜だけじゃない。
現役は、特に都築や鈴木は本気で止めてたし、達也に千島もきちんとゴールを決めた。平川はやっぱり右サイドの方がいいし、室井のキャプテンマークは安心できた。唯一の問題は相も変わらず動き出しが遅いこと・・・
どうやらTVじゃ原さんが「空気を読めていない」言ってたみたいで、見てるときはアタシたちもそう思ってたけど、きちんと副審がオフサイドをとってくれてるのも良かった。
みんな本気なんだもん。
直前まで思い描いていたもっとも最悪のパターンは、後半45分近くにお情けで福田が得点する。
そんなの見たくないし、それは逆に福田に対して失礼だと思う。
だから、何度もアタックをかけて、何度も弾かれる姿が見れてホントに良かった。
だって、それがFWじゃん。

最初は空席が目立った埼スタも、試合が始まる頃には怖いくらい真っ赤。
2-0で現役が勝ったままハーフタイム。
後半直前にまた通り雨が来るもすぐに止んで、後半が始まった。
前半だけで既に一試合分ぐらい振った両腕を、後半も振り続ける。
コールは1つ。見たい場面も1つ。
それなのに達也が点取っちゃうんだから!でも、それはそれでいいのさ。
後半28分、池田伸康に替わって福田がピッチを出る。スタジアムからかすかに驚嘆の声が出る。
バカ。お前らMDP読んでないのかよ。
そう思ってるスキに点を取ったのは・・・岡野(笑)
ああ、そうさ。それでこそ岡野だよ。野人岡野。
誰かが後ろで「帰ってこい!岡野!!」叫んでたけど、なんだかんだいって、ウチのサポ、いなくなった選手も平等に好きなんだよ。岡野もお前らも可愛いよ。うん。
そして、赤いユニフォームを身にまとって帰ってきた。後半30分―

正直あの得点シーンは、ちょっと興ざめである。
でもまぁ、しかたないかなぁとも思う。無様ではないけど、カッコ良くないゴール。
15分間ずっと、アタシたちは同じコールを、ただ一つのコールを叫び続けた。
笛が鳴って、試合は終わった。
延長もPKも無い。それで終わり。

50170人が見守る中、福田のスパイクは宙へ。赤い風船が空を埋める。
アタシたちは人文字を作り、センタサークルに作られたステージに立つ福田は辺りを見回す。
驚いたのか、照れてるのか、頬を数度掻いた福田は、室井と伸二から花束をもらい、必ず帰ってくると言った。
アタシは泣いてしまって、もう声すら出ない。
二度と福田がサッカーをしないわけじゃないし、二度と会えないわけでもない。
なのに泣いている理由はわからない。
改めて、アタシは福田正博が好きだったし、レッズサポで良かったと思う。
そんじょそこらのサッカーフリークとは違う。アタシは、あの場にいた50170人は幸せだ。
心から愛したフットボーラの最後をこの目に焼き付けた。耳にその声を刻んだ。
絶対自慢してやる。
お前ら、好きなヤツのラストプレイ見たことある?無いだろ?アタシはあるゾ―

今だって、静かになればどこからともなく聞こえてくる。

GET GOAL FUKUDA


試合終了後、福田正博インタビュウ

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