U・Bが書いてたW杯観戦レポートがあまりにも長すぎるんで、アタシは少しはまともに手短に。
いつも東京に行くと思う。電車賃が安すぎだと。
冷静に考えればわかることなのだが、2・3駅でも160円なのは当然で、その距離は赤平→東滝川間より短いし、もしかしたら赤平→茂尻間よりも短い。
そんなわけで、代々木駅で中央線に乗り換えて千駄ヶ谷駅へ。
1駅で降りてみると、この時点で既に周りは赤い集団だった。
なぜか笑いが零れてくる。
「馬鹿だこいつら」
自分もその一員のクセして思った。ホントに馬鹿だ。休みの日に朝も早くからこんなところにいるなんて馬鹿に違いない。
でも、自分の欲求に忠実な最高の馬鹿だ。
ところがだ、駅の外に出てみると、もっと馬鹿がいた。
国立競技場から伸びた列はアタシが着いた時点で既に東京体育館を3/4周していた。
一瞬で隣に手渡した、手書きの「最後列」札。
クソ寒い晴天の下、ただひたすら開門までの時間を無為に過ごす。
一人でいること自体は別になんともないのだが、ただ、メシを買って来なかったことだけは後悔した。
列はいつの間にか東京体育館を一周し、慌てたのだろう主催者側は列を反対側へ伸ばし始めた。
最後尾がどこまで伸びたのかアタシは確認していない。きっと遙か彼方、もしかしたら巨人の優勝パレードを見に来た観客の半分ぐらいは、自由席でこの試合を見るために並んでいたレッズサポかもしれない。
試合を見るまでは、たとえ後遺症で動けなくなったとしても警察や救急車にかかわれたくなかったのだろう。アタシが並ぶ目の前の横断歩道で車にはねられた男は、自分から謝って金持ちのBMWを見送った。
それでも、時折パトカが巡回して赤信号で渡るレッズサポを注意する。
赤はアタシたちの色だ。渡れないはずがない。
開門時間の11時を過ぎても列はういっこうに動く気配をみせない。
ようやくスムーズに動き始めてのは11:30。競技場の中に入ったのは12時をかなりすぎていた。
赤平にグッズのほとんどを置いているため、しかたなくTシャツとタオルを買う。
福田を愛しているクセして、福田のTシャツを変えなかったのは見逃したからではなく、いざ買う段になって偉大すぎてたとえTシャツでも、自分がその背番号を背負えなかったから。その名を背負えなかったから。
だからその倍の数字の達也を買った。だから“9”の数字が入ったタオルを買った。
もちろん、アタシはその名を呼ぶことすらできず、「9番のタオル」とだけ店員に言った。
あまりに人が多すぎるとアタシはクラクラして死にたくなる。
きっと、自分のアイデンティティがちっぽけなものだと感じるからなのだろう。自己主張は対象が少ないからできるのであって、数の暴力の前ではとても無力だ。
どのスタンドも人が溢れていて入れず、ともかく歩いてようようアタシが入ると、限りなく鹿の側だった。
泣きそうな気持ちと、自慢したくなる気持ち。
ともかく、この場合の選択肢は2つ。
とにかく座るか、座れなくても試合を見るか。
もちろん、アタシは後者を取った。
ニューヒーロー賞の紹介の度になるブーイングと歓喜の手拍子。
アタシは鹿側左コーナ最上段に場所を定め、それに参加した。
マスコットのペナント交換にすらブーイングが起こり、鹿がビックフラッグを広げ、それを畳むとゴール裏にビックユニフォームが展開される。
並んでる時に説明があったように、人型のレッドスターがスタンドを彩った。
その下にアタシの側にいた人間が何人いたかはわからない。
応援のコールに気を取られている内にファウルの笛が鳴って、試合が騒然とする。
いつの間にか試合が始まっていた。
アタシの耳には鹿の太鼓すら届かない。ホイッスルなんて以ての外だ。
それが戦うということ。
正直、試合の内容をあまり憶えていない。
が、それで良いと思う。
結果はあとでどこででも見れるし、試合そのものの映像すらどこかに残されていて見ることができる。
重要なのは、そこで自分が声を出して、手を叩き、戦っていたかどうか。
帰り道、自分はホントに精一杯戦ったのかどうかとても悩んで、そして悔やんだ。
前半も最後の方になると、完全にアタシの周辺は沈黙してしまって、ボールがラインを割った時に拍手する程度のことしかしなかった。
きっとBOYSを筆頭にゴール裏にいた人間たちは戦っていたのだろう。
だが、それはあまりにアタシたちから遠かった。
でも、あの時きちんと声を出していたら・・・
結果は変わっていたかもしれない―
あの失点は目の前で起こった。
たぶん、だからなのだろう。後半ずっとアタシが声を出して応援していたのは。
「前日から徹夜でいるのに、なんでアタシたちが座れないのさね」
などとホザいていたファッキンデブ女より、応援に関しては素人のアタシの方が、間違いなくあの周辺を仕切っていた。
前日からいようがいまいが関係ない。戦えない者は不要で、より戦える者だけが残るべきだ。
だから、近くにいた常連だろうオッサンが必死で周りに声を出すよう訴える姿は滑稽で、でも、心を打った。
本当に戦う気のあるヤツらならそんなこと言われるまでもなく声を出しているだろうし、そんなことに体力を使うぐらいなら、もっと大きな声でサポートすべきだ。でも、そのオッサンの気持ちはよくわかるし、なにより、アタシの周辺ではもっともサポータで戦っていた。
敗因の一つは、戦えない人間すらスタンドに集まったことかもしれない。
でも、それは言い訳にできるものではない。集まること、それ自体が浦和のプライドなのだから。
アタシの隣にいたアベックの男は張り裂けんばかりに声を出していたが、それより速く女の方がブーイングだけは口にしていた。
きっと、こいつらはレッズ馬鹿な子どもを育てることだろう。励めや。
兎にも角にも、アタシたちは「常勝」を気取る鹿に負けた。その事実だけが現実として残った。
負ける気はしないが勝てる気はもっとしない試合・・・
結局「GET GOAL FUKUDA」を叫ぶことはできず1日が終わった。
もしかしたらこれが福田正博というフットボーラを生で見た最初で最後になるかもしれない。
そう思うと、今でも涙が出る。
BOYSや他の人間に言わせれば、きっとアタシは愛の足りない、生半可なサポなのだろう。それを否定する気はさらさら無い。
アタシは試合を見に行かないことを金と時間のせいにするチキンだ。学生を言い訳にする臑齧りだ。
でも、と言い訳だけは口にする。
未だに頭を回り続けるトゥットの応援歌・・・
現実を直視することぐらいできる。「ありえない」などと逃避を口にはしない。
ただ、俺たちを踊らせて欲しかった。踊りたかった。
せっかくの舞台、10年分の想い―
お前のゴールで 俺たちを 踊らせてくれよ トゥットトゥットゴール
誰のゴールでもいいから、真冬の正月の国立に俺たちを連れて行ってくれよ。踊らせてくれよ。
どんなに願っても届かなかった祝福を、つかませてくれよ・・・
オチ あっ、ナビスコからの記念品もらってくるの忘れた・・・ああ・・・