空虹桜>川本真琴(※1)のピアノ弾き語り的なアルバム「ふとしたことです」(CD / MP3 / iTS)を話す後編です。
U・B>そういえば、前回の川本真琴話で、冒頭の川本真琴オフィシャルサイトへのリンクを外してたことに気づきましたが、入れた方がい
いですか?
空虹桜>その業務連絡、ここで必要か?
U・B>面白ければいいのです。じゃあ、省略ってことで、前回に引き続きセルフカヴァアルバム(※2)なので、だいたい一度
触れてます。ってところで、6曲目「ドーナッツのリング」からです。
空虹桜>前に「ドーナッツのリング」をここで喋った時(※3)、ほとんど「ドーナッツのリング」に触れてなかったっていうね。
U・B>今見返すと、そんな古いクロスフェーダでもないのに、結構雑いですよね。
空虹桜>クロスフェーダで話してるのは、だいたい雑ではあるんだけどね。
U・B>まぁ、雑談で駄話ですからね。で、これで終わると前回とたいして変わらんッスから、なんか話してくださいよ。
空虹桜>この曲って、凄い大きなことを唄ってて、宇宙とか時間とかと自分と相手を紐付ける曲なんだけど、ひっそり
織り込まれてる春と夏の間の 名前のない季節が終わるの 打ち寄せる波で 遊ぶ君をぼん
やり見ている あたしと君の間の 名前のない気持ちが終わるの 一瞬の打ち上げ花
火 照らされてた横顔見てた(※4)が、抜群にいいんだよね。
U・B>春と夏の間なら、初夏じゃね?
空虹桜>晩春とかでもいいんだろうけど、でも、それだとどっちかに寄ってるんだよ。
U・B>はいはい。寄りたくないんだ。
空虹桜>うん。寄りたくない。適切な言葉が存在しないから、稚拙な言い回しでしか表現できなくて、き
っとでも、そゆ季節の海で、打ち上げ花火見て思いついたんだよ。この曲。
U・B>ピアノ弾き語りだから、逆にスケール感が増してる感じも凄いですよね。
空虹桜>そうそう。さっきも言ったけど、大きなモノと自分をつなぐ曲だから、つながる感が前面に出て聴こえるんだよね。
U・B>そして、僕らが大好きな名曲「やきそばパン」もジャズっぽく。
空虹桜>食べ物ネタが続くっていう。
U・B>ただ、「やきそばパン」ってもっと衝動的な曲だと思ってんで、これだとテンポが遅いんですよね。ヒップで
はあるんだけど。
空虹桜>わかるけど、まぁ、若くはないってのが一側面としてはあるだろうし、今回のアレンジ聴いてて思うのはこの星のこの
場所はリップクリームくらいのガードで 壊れそうになりながら光の中進化していく
まだ Lesson & Lunch(※5)が、実は一番キモなのかもしれないっていう。
U・B>LessonとLunchがLで頭韻踏んでるとかですか?
空虹桜>それもなくはないけど、キモはLessonだよ。やっぱり。「愛の才能」も今も勉強中よ「SOUL」(※6)だったんだけ
ど、初期川本真琴で描かれる思春期は、当事者にとっての訓練期間として描かれてるんだよね。
U・B>おおっ。評論家みたいな言い回し。でも、そうなると8曲目「タイムマシーン」は、どうなんッスか?もうちょ
っと悔しさみたいのが前に来てる感じがするんですけど。
空虹桜>まぁね。しかもホーン入ってて、気怠さみたいのまでアレンジされてるし。
U・B>そこまで大人の恋愛の話でしたっけ?みたいな過剰さすら抱くっていう。
空虹桜>でも、十代のすみっこ君といっしょに ずっと引っかかってたいと思ってた あの時、あ
の曲がり角二人戻れたならいいね(※7)ってさ、ずっと大学生ぐらいの曲だと思ってたんだけ
ど、このアレンジで聴いてると、実は長い付き合いのダラダラした関係かもしれないんだよ。
U・B>おっと。ずっとそんな煮え切らないめんどくさい関係を続けていましたと?
空虹桜>幼馴染み枠みたいなのに入れられてたとかね。「仲の良い友達」っていう。
U・B>言うてもさ、単に男がダラしなくて、なんかの拍子で一発ヤれればいいやぐらいなだけじゃね?
空虹桜>さすが。チューして嫌われかけたとか、小学生みたいなこと言ってる人は違うね。(※8)
U・B>五月蠅い!
空虹桜>あと、このアレンジは一回音が途切れて、また繰り返すんだけど、それが一人でいなきゃいけない感を強調してい
て、とても良いです。台詞無くなってるけど、それはもう仕方がない。
U・B>強がる歳じゃない。
空虹桜>うん。とはいえ、強がりたい時は強がってもいいんだけどね。
U・B>ええ。強がりますよ。強がりますともさ。畜生めっ!9曲目が表題曲「ふとしたことです」で、圧倒的に文字数が減る。
空虹桜>今の川本真琴が書いた曲だしね。とはいえ、2行で一つのパートが終わってる感じはいっそ超短編的(※9)だと言えなくはない
し、小石を蹴飛ばすようには 好きだとは言えないのです(※10)なんてフレーズが割り込んでくるあ
たり、相変わらず油断も隙も無いんだよね。
U・B>オマケになんだか劇伴調(※11)というか。
空虹桜>もしくは、みんなのうた調(※12)
U・B>この中では違和感があるというか、転調みたいな感じで。にもかかわらず表題曲(※13)
空虹桜>さっきも言ったけど、今の川本真琴だからね。
U・B>で、その今の川本真琴がラストの10曲目に唄うのが「1/2」
空虹桜>ねぇ。なんで皆こんな「1/2」好きかなぁ。アタシは「愛能才能」のが断然好きなんだけど。
U・B>るろ剣(※14)って、そんだけスゲェって話なんじゃないッスかね?
空虹桜>恐るべきは、ジャンプ黄金期?(※15)
U・B>YES。
空虹桜>そうそう。今さらなこと言っていい?
U・B>どうぞ。そろそろ終わりの時間ですし。
空虹桜>歌詞見ながらこの曲久々に聴いてたら澄んだ水のようにやわらかく 誰よりも強くなりたい(※16)な
んて、すんごいパンチライン入ってるのね。
U・B>柔よく剛を制する的な。
空虹桜>しかも澄んでるのね。逆説的に、主人公の子は汚れを意識している。
U・B>ああ。
空虹桜>しかも、自分は半分だと思っている。足りていないと感じている。だから、愛しているし、太陽が沈まなければいいと願うんだけ
ど、この星が爆発するみたいな吹っ切れたシチュエーションまでいかないと、自分の想いが叶ってはいけないと呪ってたんだ
よ。それがさ、ふとしたことです 月明かりに月明かりに スウィングしよう(※17)なんて唄う
ようになるんだから、歳を取るってのは、そんなに悪いことじゃないんだよ。やっぱり。(※18)
※1 川本真琴:福井が生んだシンガソングライタ。90年代を駆け抜けた才能。本文で言及してるけど、オフィシャルサイトはこちら。
※2 セルフカヴァ:自分で自分の曲を収録し直した曲のこと。その際アレンジが変わると「セルフカヴァ」といい、変わらないと「再録」という。だいたいの話。
※3 前に「ドーナッツのリング」をここで喋った時:第545回の「The Complete Singles Collection 1996〜2001(後編)」のこと。空虹さん的には、今回のアレンジのが断然好きだそうな。
※4 拡大部は歌詞より引用。
※5 拡大部は歌詞より引用。
※6 拡大部は「愛の才能」の歌詞より引用。あっ!「愛の才能」注釈は改めて入れない!
※7 拡大部は歌詞より引用。
※8 珍しく、今年に入ってからジタバタしてるので、ことあるごとに空虹さんから弄られる唸るバクテリア35歳なのです。
※9 超短編:空虹さんが主に参加している、500文字以下の短い文芸作品。
※10 拡大部は歌詞より引用。
※11 劇伴調:映画やテレビドラマ、演劇やアニメで流れる伴奏音楽のこと。
※12 みんなのうた:日本放送協会が子どもに刷り込みを植え付けるために放送している5分番組。個人的に好きなのは「メトロポリタン美術館」「ヘンなABC」「コンピューターおばあちゃん」
※13 表題曲:ここでは、アルバムタイトルになってる曲のこと。
※14 るろ剣:1994〜1999年に「週刊少年ジャンプ」で連載されていた和月伸宏による漫画「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」の略称。「1/2」はアニメ版のOP主題歌(第2期)だった。
※15 ジャンプ黄金期:文脈にも寄るけど、一般的にはギネスに記録されている653万部を発行を達成した1995年の3-4号の前後を指す。
※16 拡大部は歌詞より引用。
※17 拡大部は「ふとしたことです」の歌詞より引用。
※18 空虹桜41行。U・B29行で、俺の勝ち。これでまた川本真琴はいったんお休みで、次からはHALCALIに戻ります。