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空虹桜> まだインディーズ?
U・B> そうです。このアルバムで火が点いた印象はあります。1曲目が「ドーピング☆ノイズキッス」で、「結構つらい」と「絶叫、エロい」で踏むのはなかなか見事だと思うんです。
空虹桜> たしかに踏めた感はあるけど。ラストワンフレーズの「機械になりたい 衝動を餌に快楽を飼う」(※2)のが、アタシ的にはグッと来るけどね。
U・B> 空虹さん、そういうの好きですもんね。個人的には、ハジメタル(※3)のピアノループと、サビの混沌にフリージャズみを感じるので、この曲好きなんですけどね。
空虹桜> タイトルいいしね。
U・B> タイトルいいですよね。パンクが行きすぎるとノイズになるっていうのが、この辺のバンドから実体となって現れ始めた印象です。
空虹桜> 2曲目は彼の有名な「うわさのあの子」で、「あたしはあんたとセックスがしたい」(※4)
U・B> 「『デストロイ』言うバンド」(※5)の前は「『セックス』言うバンド」として有名だったミドリを象徴する曲だけど、Aメロとか祭拍子ですからね。
空虹桜> ああ。そうだね。サビも含めて、メロディが和風だね。
U・B> ええ。当時あまりそういう感じの言及がなかったんですけど、「ファースト」の「お猿」(※6)にしろ、土着的というか民謡的ななんですよ。実は、ドラムの小銭さん(※7)に寄るところが大きいと思ってはいるんだけど、そのメロディに過激な歌詞が乗っかるから、ただでさえ見た目色モノなのに受けたっていう。
空虹桜> そだね。あとは、やっぱり、この曲は思春期の曲だよなぁっていう。
U・B> おっと。もうちょっと詳しく。
空虹桜> 「うわさのあの子」ってタイトルからすると、「学校で噂のビッチ」の話ではあるんだけど、実際問題としてはそのビッチが主人公の曲なわけじゃない。
U・B> 「あたしはあんたとセックスがしたい」(※8)ですからね。
空虹桜> そう。で、その前後は切々となんで「セックスがしたいか」を説明していて、馬鹿な男どもが「チ○コ入れたい」って言うのとは違う。
U・B> 馬鹿って言うな。入れたいんだから。
空虹桜> 黙れ。馬鹿。そうすると、出だしが「絶景二人で拝みたい!悲しいかな、欲がでた」ではあるんだけど、その欲は「彼女を比較の対象に当てはめては否定する 理屈に夢中な劇的妄想 ステキな憂鬱楽しもう」って言う嫉妬は歴然とあるんだけど、その言語化するには難しい感情を「「確かにあった。あの時、手にした」性欲か真実か見分けもつかぬ 気持ちいいところを探る」みたいな快楽で誤魔化した上で、「頭が2つの答えをゆらす 言葉にできず 分けもわからず、それでかまわず「あたしはあんたとセックスがしたい」」(※9)ってところに帰着する。やっぱり、この最後のフレーズはよく書けていて、今話したように「肉体関係にて表出する言葉にできないこと」を、ウマいこと言葉にしているなぁっていう。
U・B> なるほど。
空虹桜> でさ、その「肉体関係」っていうか、凹に凸って補完されたという勘違いというかは、単なるアドレナリンとかエンドルフィンによる幻想でしかないわけだよ。少女マンガなんかだと多いテーマ設定だけど、処女や童貞を喪失することって、通過儀礼化しているから物語化しやすいんだけど、実際にはその後の人生の方が長くて、まず、その問題に行き当たるのは、春を思う時期だからこそ。
U・B> なんだか文学的な言い方したぞ。いずれにせよ、2007年の曲の中でもトップクラスで重要な曲です。
空虹桜> 3曲目が「今日は彼氏がいないから...」で、2曲目に続いてアレな曲ではあるんだけど、この歌詞はもう解釈の隙しかなくて辛い。
U・B> 解釈の隙・・・とりあえず、ライヴの時は凄まじくパンクナンバーなんで、そのイメージだったんですけど、久々にCD聞き返したら、全然違ってビックリしました。
空虹桜> これでパンクって。
U・B> ロックにしろパンクにしろ、意味のあることを唄ってはならんのですよ。意味なんぞは聴き手が勝手に捏造すれば良い。
空虹桜> 極論だなぁ・・・とりあえず、なにが「おっぴろげ」なのかという話と、「あんた」が誰なのか?で、いちお、筋道立った解釈考えたんだけど、なんだか、そう言われると喋る気無くすな・・・
U・B> 喋ればいいじゃないか。
空虹桜> 上からだなぁ・・・とりあえず、ピアノがわりと和風に聞こえるんだけど、なんでだかはわかりません。音楽理論わからん。
U・B> 凄いとこ逃げたな。ちなみに、オイラはこの曲で「あっ」って入る後藤さん(※10)の合いの手が好きです。
空虹桜> よっ!変態。
U・B> お褒めにあずかり光栄です。
空虹桜> 4曲目「声を聞きたいのですが、聞こえないのです」は、サビ前に一瞬加速するのが心地良い。
U・B> そのまま突っ走ってくれていいのにとは思うんですけどね。
空虹桜> 「心をつなぐ やさしい嘘をもっと かなしく聞かせてよ 声が聞こえないの」(※11)だからね。そんなに全速力で走ったら、聞こえるモノも聞こえない。
U・B> あっ、ウマいこと言った。
空虹桜> もちろん、その前には「ここまでおいでよ 速く 走って 手を重ね合わせてみたいの」(※12)と唄ってはいるんだけど、この曲は終わった恋の歌だろうから、どうしたって、そこの疾走感というか足掻きみたいなモノも、もう終わってるんだよね。
U・B> ああ。未練だけですな。
空虹桜> 未練がましいU・Bさん的にはたまらんのでしょ?
U・B> 人聞きの悪いことは言わないでいただきたい。
空虹桜> はいはい。そして、5曲目が「あたしのお歌」で、ある種の「関白宣言」(※13)
U・B> そうですね。DVはどこまで耐えられるか自信ないけど、後藤さんに「もっともっと、あたしを見て あたしをもっと大切にして お姫様と呼びなさいよ よきにはからえ男ども」やら「あなたの前だけでは素直な女の子でいたいけど 終始強がってしまう そんなあたしをゆるしてね」(※14)とか言われても、なにを当たり前のことを仰りますか?としか思わんですよ。つかさ、ついでだから言いますけど、そういうこと言うクセに、こっちがどんなに平伏しても信じてくんないんですよ。そんな、どうすれば恭順を信じてくれんッスか?正解無いから、ほんとわからん。
空虹桜> 知らんがな。
U・B> 行きずりの男と寝てるのも受け入れるから、すこしは俺のことも受け入れてくださいよ。ホント。
空虹桜> その前に「子供を産み、育てるだけが女じゃあないのです」(※15)言ってるから、どっちかっていうとフェミニスト文脈だけどね。全体的に、フェミニストフェミニストしてなくて、「フェミニスト寄りだけど乙女な部分も否定できない」感じは、リアルかなぁと。6曲目がハイライト感のある「獄衣deサンバ」
U・B> こっからの畳み込みっぷりは凄まじいですからね。
空虹桜> しかも、超切実じゃない?この曲だって「なんどもなんども、なんどもなんどもなんどもなんども なんどもなんども、なんどもなんどもそう言った」が持て囃されたんだと思うけど、その前に言ってるのは「あの子はこう言った、君は一人で大丈夫 ずっと一緒にいたいから、しばらく一人にしておくれ」や「私はこう言った、手首を切っても死ねへんし、逃げたいのは私も一緒や お願い一人にせんといて」や「傷つくのはもう嫌で、本気でバンドをやろうとか 僕にそう思わせた君をロックスターにしてあげる」(※16)だもの。
U・B> ええ。だから、当時この曲で泣いてる女の子いっぱいいましたもの。
空虹桜> 泣くよねぇ・・・
U・B> とくに空虹さん最後に引用した歌詞はさ、後藤さんのリアルにしか聞こえないじゃないですか。
空虹桜> そだねぇ。
U・B> で、このアルバムだと次の曲が「愛のうた」なんですよ。みんなで「ああ!」叫ぶんですよ。
空虹桜> 叫ばないとやってられないって言うね。「愛について騙された あいつに騙された 手のひら返して、さあ。手首を切っても、はじまらない」はいくぶんステレオタイプな感じが無くは無いけど、「愛について騙された。愛について騙された。愛のうた歌ってよ 愛してる。って、もう一度言って」(※17)を「愛のうた」って言わなきゃいけない人生は、辛みしかない。
U・B> ええ。「真実を黙ってた 信じたって黙ってた 手の鳴るその方へ、さあ。あの子の涙かわいてく」(※18)からするに、二股かけられた相手が先に泣いてるわけですからね。完全にこっちが泣きたいわけじゃないですか。生憎と、二股できるほどの器量も度量も無いので、よくわからんとかはあるのだけども。
空虹桜> いずれにせよ、叫ばざるを得なくて、その結果として、8曲目「あんたは誰や」は「あんたは誰や あたしを惑わす あんたはいったい誰なんや あたしを惑わすあんたは誰や」(※19)だもんね。
U・B> ほぼ歌詞全引用。
空虹桜> 辛うじて全文引用は避けました。
U・B> でも、この曲のセリフの「パンク」だとか「聞こえてんか」叫んだりするのって、後藤さんの自信の無さの表れでもあるわけですよ。
空虹桜> そうだね。だから、この曲の「あんた」は「音楽」であり「ロック」であり「パンク」だよね。
U・B> うん。そうなりますよね。だから、「あんた」をどんなに問い詰めても回答は返ってこない。
空虹桜> ある種、禅問答だもんね。
U・B> でもさ、このセリフ部分って、後藤さんが叫べば叫ぶほど、俺泣けるんですよ。
空虹桜> 変態。
U・B> 変態なんですけども、絶対当人には否定されるし、拒否られるのはわかってるけど、愛おしくて守りたいなと思うわけだ。
空虹桜> いきなり気持ち悪いこと言うな。
U・B> 情動。JODO。
空虹桜> わけわからんぞ日々野(※20)最後、9曲目が「都会のにおい。」で、この曲凄い21世紀的だなと思うんだけど、「都会」が「絶望」の象徴なわけじゃん。
U・B> 凄いこと言いましたね。
空虹桜> 魑魅魍魎と新自由主義が跋扈して、金にならない夢なんぞ食って捨てるのが都会なんだよ。それは、実は20世紀からそういう場所だったんだけど、でも、20世紀は情報の伝達が遅かったので、「都会は怖い」みたいな都市伝説的な伝わりかたしかしてなかったのが、今だと、東京に夢見てるのって、ITヴェンチャの食い物にされたい意識高い若い子ぐらいじゃん。
U・B> 各方面へ悪口仰いましたね。
空虹桜> ラップはリアルをリアルに語ることや、リアルを虚構で包むことが得意で、とくにアタシは前者に興味・関心が引かれるのだけれども、ロックやブルースの人たちが羨ましいなぁと思うのは、ネガティヴをネガティヴで発信して、それが許容されるんだよ。日本のヒップホップシーンだと、ECDは死んじゃったけど、GOMESS君が辛うじてやってるぐらい(※21)
U・B> Creepyもじゃないッスか?(※22)
空虹桜> ああ。そうか。そだね。アタシがCreepyをその線に置いて解釈してなかった。いいや。まとめて。
U・B> 雑だなぁ・・・とりあえず、この曲、「帰ろう。今すぐ。誰も気にとめず。 あなたと2人、息を殺し、生きていたいだけ。」と唄った後に「「壊したい」と言って。」(※23)終わるんだけど、この頃の後藤さんは破壊衝動の塊みたいにしか見えなかったので、その危うさみたいのも含めて、ミドリを追いかけてた人が圧倒的に多かったと思うんです。
空虹桜> 中森明菜的な?(※24)
U・B> おう。中森明菜引き合いに出した言説を初めて聞いたぞ。それはともかく、後藤さん自身を含めた全般的な破壊衝動が際限なくなってしまったから、ミドリは解散せざるを得なかったし、後藤さん個人の音楽活動も複数回の活動停止に追い込まれるわけだけど、このアルバムの良さは、その危うさをギリギリ「勢い」で立たせられていた最初で最後の奇跡みたいなモノだと思うんです。
空虹桜> 補助輪無しで自転車乗れたみたいな。
U・B> またウマいこと仰る。でさ、この奇跡を実家ニート(※25)してる時に聴くって、ある種のお導きですからね。人生ちっとも終わらんかったっていう。
※1^ ミドリ:ハードコア・パンクロックバンドで「大阪のいびつなJUDY AND MARY」2010年解散。メンバの変遷が激しすぎるのだけど、ドラム小銭喜剛、ギター・ヴォーカル後藤まりこは不変。
※2^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※3^ ハジメタル:日本のキーボーディスト。2004年から解散まで、※1のとおり、ミドリで鍵盤奏者を務める。成瀬心美のサポートは知ってたけど、しばらくチェック怠ってたら、いつの間にかGLAYのサポートしてた!
※4^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※5^ 『デストロイ』言うバンド:ある時からミドリの代名詞になったフレーズが「デストロイ」
※6^ 「ファースト」の「お猿」:ミドリの1stアルバム「ファースト」の2曲目。レヴュしたのはこちらで。
※7^ ドラムの小銭さん:※1のとおり、ミドリの支柱、小銭喜剛のこと。解散後はニガミ17才でドラムを叩いていたが、家庭の事情により、2021/4/14脱退し岡山に帰った。
※8^ ※4同様、直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※9^ 複数個の鉤括弧は歌詞より引用。
※10^ 後藤さん:※1のとおり、日本のシンガソングライタ後藤まりこのこと。アレな人たちは、皆、継承付けて呼ぶ。
※11^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※12^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※13^ 関白宣言:藤原基経でや羽柴秀吉の話ではなく、ご存じ、さだまさしが1979/7/10に発表したシングル。
※14^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※15^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※16^ 複数個の鉤括弧は歌詞より引用。
※17^ 複数個の鉤括弧は歌詞より引用。
※18^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※19^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※20^ わけわからんぞ日々野:高校時代、演劇同好会だった空虹さんが覚えてるセリフのひとつ。しかし、空虹さんの台詞ではなかったらしい。
※21^ ECD:a.k.a 石田さん。日本のラッパー。2018/1/24死去。 GOMESS:日本のラッパー。高機能自閉症当事者であることをカミングアウトしている。
※22^ Creepy:日本のヒップホップユニットCreepy Nutsのこと。ビックリするぐらいマスコミ露出が多いけど、本質的には深夜のAMリスナ。
※23^ 複数個の鉤括弧は歌詞より引用。
※24^ 中森明菜:日本の歌手、女優。アイドルの当たり年と言われた1982年のデビューの82年組。空虹さんの発言は名曲「少女A」を意識しているだろうが、Wikipedia見ると、当人はレコーディングを嫌がっていたらしい。そりゃな。
※25^ 実家ニート:U・Bは2007年に1年ほど実家でニートをしていたのである。