上映時間の都合で、珍しくTOHOシネマズ日本橋で「
リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」を見ました。
ヒトラーは、お盆に自分のイニシャルを入れていた!
何処の小学生か!
って、そうじゃなく、もうちょっと見せようがあった気はする映画。
構造的に語りおろしていくのは適切な気はするのだけど、あの終わり方をすると、
わかってないで話聞いてたの?みたいな感慨が拭いきれない。
おそらく、アントニー as ジョシュ・オコナーは、リー・ミラー as ケイト・ウィンスレットが従軍カメラマンをやっていたと知らなかったって、史実に基づく演出意図なのだけど、
うーん。
パンフのインタヴュでケイト・ウィンスレットが、この設定にして伝えやすくなったと語っていて、それはそうなんだけど、特に序盤は設定が機能しておらず、すこし眠気に負けてしまい、いくつか大事なカットを見落としたり。
それはともかく、全体的には濃淡の激しい映画だ。
生命力と死臭に溢れているともいう。
マン・レイのミューズを終えたあとの自由な時間から物語ははじまり、新しい恋と戦争がはじまり、戦争の渦中へ落ちていく。
当初の明るい南仏の演出は跡形もなく消え去って、後半はずっと暗い。
戦争だから。
ドイツ兵と交際していたから髪を刈り上げられる女性。
文化人を片っ端から収容所にぶち込んでいたナチス。
コンテナの中に溢れる死体。
トラックに山積みとなっていた食パン。
カメラを睨む女の子。
同じ部屋に相棒の男の子がいるのにおっぱじめる派手なセックス。
そして、ヒトラーの浴槽に浸かるリー・ミラー。
たしかに自由ではあるのだけど、一貫性がある。
あくまでも自分は自分であるということ。
だから、躊躇わないし流されない。
マン・レイのミューズで居続けなかったのは、ソラリゼーションをマン・レイに取られたからだろうし、パンフを見てもそのようにこの映画は描かれている。
なにより、これもパンフでケイト・ウィンスレットが語っているけど、戦場でリー・ミラーは本当のリー・ミラーになったのだろう。
二眼レフ(ローライフレックス)だから、カメラはシュートしない。
撮影時に下を向く。だから、手元がしばしば映る。
リー・ミラーは「
シビル・ウォー」のモデルと言われているのだけど、ちょっと違うかなとも思う。
なにが違うかといえば、やはり、決定的に映画の意味が違う。
「シビル・ウォー」は師弟の物語だったが、実はこの映画
シスターフッドのように見える。
リー・ミラーは、一度ピントを合わせたら被写体を見つめている。
パリで訪れたソランジュ as マリオン・コティヤールが、夫のアヤン公爵が強制収容所に収容されたことを知らず、「 出来ないことを言っては駄目 」と窘められ、肩に顔を埋める。
その時、口にした台詞はローランド・ペンローズ as アレクサンダースカルスガルドに言われた言葉であり、拒絶した言葉でもある。
同様に、パリ解放で自由を歌う友人ヌーシュ・エリュアール as ノエミ・メルランの肩に顔を埋める。
同じくパリ解放後イギリス版VOGUE編集長オードリー・ウィザーズ as アンドレア・ライズボローに電話した際、ロンドンとパリの温度差に電話切った。
それにもかかわらず、VOGUE戦勝号に自分の写真が使われると思っていたリー・ミラーは嘆いて自分の写真やネガを切り裂くけれど(リー・ミラーが自分の写真を封印した理由の一端はここにある気がした)、オードリー・ウィザーズに「
全力を尽くしきっていない 」と叱咤する。
自分が全力を尽くした。とは一言も言っていない。
こうなることはわかっていたハズだ。
期待は裏切られたときに失望に変わる。
にもかかわらず絶望するのは、友人に訪れた悲劇を世界へ伝えたかったからだし、オードリー・ウィザーズが応えてくれると信じていたからだ。
でも、シスターフッド的な感慨はまだ萌芽したばかりだから仕方ない。
初めてここで、リー・ミラーが自分のトラウマを吐露するのは、結果が出なかったとしても、
オードリー・ウィザーズの努力を認めたからだ。
なお、はじまって数分でケイト・ウィンスレットがおっぱいモロ出しだったため、普通に声出そうになりました。
全般的にリー・ミラー30歳凸凹ぐらいの出来事なので、ケイト・ウィンスレットがやるには肉体の説得力が弱かった気はした。
どうしたって、アラフィフの体に見えてしまうのだよね。
特殊メイクで70年代の役をやってる時のが説得力あったりする。
あと、隙あれば煙草吸ってるのが、如何にも戦時中な感じだけど、煙草一箱で買収されるので米軍はホント糞。
それとそう、最近ノルマンディーづいてるので、1回ノルマンディー行くべきだなぁ・・・
そして、シュルレアリスムづいてるのですよね。
パンフで飯沢耕太郎が書いている「デペイズマン」の語は覚えておこう。
篠儀直子の解説も素晴らしい。
町山さんはなんだかんだいって、エモーショナルな人である。
いろいろ変な感じはするけど、TOHOシネマズ日本橋は空いてるので穴場なのかもしれない。
全然あの一帯に慣れる気がしないけども。