その26「清水」

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U・B> ミドリ(※1)の話をしておりますが、今度はいよいよSONYから発売してしまった「清水」(Amazon / HMV / Apple Music)です。Apple MusicではEP扱いですが、Wikipediaでは3rdアルバム扱いです。めんどくせぇ!

空虹桜> このジャケ、誰?

U・B> たしか、当時のマネージャだったかスタッフだったか。この人が清水さんだった記憶だけど、当時のインタヴュ記事とか、インターネッツから抹消されてしまってるので、証跡が見つからない。

空虹桜> 証跡・・・

U・B> そこですか?いや、いちいちツッコむのめんどくさいから1曲目ですけど「愛って悲しいね(宴会バージョン)」は事実上のインタールード(※2)なので、2曲目の「愛って悲しいね」からが本編ですが、Amazonのレヴュだとあんまり言及されてないけど、まざまざとミドリなんですよ。この曲。

空虹桜> 聞き慣れない日本語使ったな。

U・B> またへんちくりんなツッコミをありがとうございます。でも、だって、「抱きしめて抱きしめて抱きしめて 離さんといて 愛、愛、愛してる とってもとっても愛してる あんたを1番、愛してる!」(※3)ですよ?

空虹桜> そりゃそうなんだし、そこがキャッチィナのはわかるけど、キッツいこと唄ってるのは「彼女が涙を一つ落としたよ 気持ちいい事してみたい でも朝が来るんちょっと怖い 他人に戻れるその関係を壊したい」(※4)の方で、この歌詞はちょっと凄いよ。

U・B> どの辺がですか?

空虹桜> 1番が「あのバンドのギタリストとやりたい」で、わかりやすい性愛の話が、2番のこの歌詞で転調するんだよ。実は「彼女」の話になって、でも、彼女の相手と自分の関係でもあり、彼女と自分がそういう関係だとも読めるじゃない。

U・B> えっ?そう読みますか?

空虹桜> 百合ですよ。百合。しかも、彼女が泣いてる原因は自分にあって、自分がそうした理由は彼女を落とすためだったと誤読してしまうと、「愛って悲しいね」ってタイトルがえげつなくなって良いよね。

U・B> 「えげつなくなって良い」って、お前の方がヒドい日本語使うじゃないか・・・

空虹桜> 「えげつない」って、良い意味よ。なんの躊躇いもなく、ひとつの目的を達せようとする心意気の掲揚だからね。

U・B> 解釈が尖りすぎですよ。

空虹桜> いずれにせよ、「愛してる」なんて吹いて捨てるような言葉だから連呼しないと届きもしないんだけどね。で、3曲目が「犬、走る。」なんだけど、この曲をもって、メジャデヴュしたミドリがつまらなくなったという人がいるのはわからじゃないけど、ずっと尖った曲ばっかなのもしんどいよ。

U・B> そうなんですよね。実際問題として、このアルバムトータルで見ると物足りないのも事実だし、この曲が足りる曲かというと、そうでもないんだけど、じゃあ、っていうと、このアルバムから明確に連呼系に切り替わったなぁとは思うんです。

空虹桜> でもさ、この曲自体はどっちかって言うと、リリシスト後藤まりこ(※5)みが強い曲だと思うよ。

U・B> そうなんですけど、それを言ったら、「愛って悲しいね」の空虹さん解釈だって充分リリシストみが立ってるじゃないですか。

空虹桜> ああ。たしかに。

U・B> とくに、俺がミドリを知った時にはそういうモードではあったのだけど、ミドリって、後藤まりこの衝動をどれだけステージ上で表現できるか?のバンドだったわけですよ。

空虹桜> はいはい。だからこそのジャズ感というか即興感。

U・B> だし、何度となくスピーカのの上とか登って、クラウドサーフする後藤さんを見てる身としては、何度かライヴレポにも書いてるハズなんだけど、この人はステージ上で死んで生き返るを繰り返してるんだろうなぁと思ってたし、今でも、DJ後藤まりこ(※6)のライヴは後藤まりこを崇拝する信者が、だいぶしてきた後藤さんをまるで神輿みたいに運ぶわけですよ。

空虹桜> でも、その信者達って、後藤まりこのバイブにもならないわけだよね。

U・B> いきなりえげつないこと言いましたね。俺、そこに踏み込むと後戻りできない予感があるから、実態は知らないですよ。

空虹桜> つまらん男だなぁ・・・って、曲の話から逸れまくったけど、「あたしたち未来なんていらないんよ」(※7)って歌詞は大事で、未来を無条件に肯定的に捉えるのは嫌悪感があるわけですよ。

U・B> 悲観主義者的な? 

空虹桜> 違くて、この歌詞中ではどっちかって言うと「今」のためには「未来」はいらないって話になってるけど、アタシとしては、未来がポジかネガかなんて50:50なんだから、無条件にポジとするのは思想と反するだけ。

U・B> そのわりには、こないだ「未来はいつだって暗いよ」とか引用してた(※8)じゃないですか。

空虹桜> 「光の射す方へ」とか言うの気持ち悪いでしょ?(※9

U・B> まさかのスゲェdis。

空虹桜> つかさ、「光が射してる」ってわかるには、その方角が暗くないと行けないんだけどね。

U・B> 合理的な解釈。

空虹桜> なので、来世をアテにしたい気持ちがわからないじゃ無いけど、今をちゃんと生きる方が大事だし、今が糞だったら今を壊すしかないんだよね。ってところで、4曲目が「エゾジカ・ダンス!」

U・B> 電気だったらモノノケがダンスするんだけどね(※10

空虹桜> いらんわ。その情報。

U・B> キャッチィで、中身の無い歌詞で、「特急さんはちょっとクレイジーです スーパーサウンド ビュティービュティー」(※11)とか、電気グルーヴが唄いそうじゃないですか。

空虹桜> わかるけど、その話必要か?

U・B> このアルバムっていうかEPの中で、一番長い曲がこれで3:55なんですけど、コンテンポラリ感というか、フリージャズ感が時間稼いでるんですけど、そのクセ、記憶に残ってるのはやっぱり出だしの「間」じゃないですか。

空虹桜> それはまぁたしかに。

U・B> そもそも、エゾシカ、なんの意味も無い。

空虹桜> アレでしょ?これが発展的拡張してポップになったのが、コムアイ。違う。えーと、水曜日のカンパネラ(※12

U・B> ああ。なるほど。それは一理。ただ、コムアイはもう水カンじゃない(※13)し、この曲も「死んだら終わりとおっしゃいますが、先生!何が終わるのですか? 選べぬ自由の不幸せが バースト寸前!」(※14)とか、結構意味のあることは唄ってたりする。

空虹桜> まぁね。結局、後藤まりこという人の真面目さというか、シリアスさがこのバンドの魅力と限界の蓋をしてしまったような。

U・B> ある種の正論というか、紋切り型というか。まぁ、いつまでも続くバンドだったらあそこまで盛り上がらなかった気もします。今から考えると。

空虹桜> 5曲目「ロマンティック夏モード」は「ファースト」で話したばかり(※15)なので、最後6曲目の「グッバイ」

U・B> 最後の最後にシリアスですよね。

空虹桜> 「ファースト」が「POP」で、「セカンド」が「都会のにおい。」と、最後の曲はわりとシリアスにしがちだよね。

U・B> そですね。さっきの空虹さんの言い方を借りると、後藤さんの真面目さですよ。今もそうだけど、暴れ回って終われないっていう。

空虹桜> なるほど。「ロマンティック夏モード」は2回もラス前だし。

U・B> その象徴が「結局 あたしになにもない」(※16)って歌詞だとは思うんですけど、そもそも、「好き」みたいな感情って、すべからく言語化できるようなもんじゃないじゃないですか。

空虹桜> 難しい言い方した。

U・B> たまには。結局、世間一般で言われてるような言葉や状態を、自分に援用して「そのようなモノ」と定義するしか、自分の状態って説明ができなくて、それは「自分になにかある状態」なのか?と問われると、「よくわからない」っていう。

空虹桜> ある種の厨二病なんだけど、そゆのも含めて、「自分らしさ」とか「自分のようなモノ」は形成されていくのだから、老衰で死ぬ直前にでもならないと確固たる「自分」なんて個体は生じないよね。

U・B> ですよねぇ。ああ。世知辛い世知辛い。

空虹桜> で、まとめて。

U・B> このEPでメジャデヴュしたんですけど、マーケティング規模が大きくなるのはいいけど、メジャ向きのバンドじゃ無いのはわかってたんですよ。で、この巫山戯たタイトルを無理矢理通してどうなるかと思ったら・・・って話が、こっからのアルバムレヴュの焦点というか、ある意味、崩壊の序曲がこのEP。


※1^ ミドリ:ハードコア・パンクロックで「大阪のいびつなJUDY AND MARY」2010年解散。メンバの変遷が激しすぎるのだけど、ドラム小銭喜剛、ギター・ヴォーカル後藤まりこは不変。
※2^ インタールード:ここでは間奏曲の意。
※3^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※4^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※5^ リリシスト後藤まりこ:※1のとおり、日本のシンガソングライタ後藤まりこのこと。リリシストは叙情詩人の意味。
※6^ DJ後藤まりこ:ソロで活動する際の後藤まりこの名義のひとつ。
※7^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※8^ こないだ「未来はいつだって暗いよ」とか引用してた:空虹さんの超短編「少女、銀河を作る - 元少女、銀河を護る」にて。大本ネタは加藤登紀子。
※9^ 「光の射す方へ」とか言うの気持ち悪いでしょ?:「光の射す方へ」はもちろんMr.Children。
※10^ 電気だったらモノノケがダンスするんだけどね:元ネタは電気グルーヴの「モノノケダンス」
※11^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※12^ コムアイ。違う。えーと、水曜日のカンパネラ:水曜日のカンパネラは日本の音楽ユニットで、コムアイは水曜日のカンパネラの元ヴォーカル。
※13^ コムアイはもう水カンじゃない:2021/9/6、コムアイが水曜日のカンパネラを脱退した。なお、水カンは水曜日のカンパネラの略。
※14^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※15^ ファースト:ミドリの1stアルバム「ファースト」のこと。レヴュしたのはこちらで。
※16^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。

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