その30「SNS」

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U・B> アルバムタイトルは5曲目「Saturday Night Sky」の頭文字(※1)らしいんですが、そんなことより、このジャケはデザインの勝利感があるよね!ってことで、めっきりアルファベット表示が主体ですけど、ここではカタカナ表記継続でアナログフィッシュ(※2)の11枚目のアルバム「SNS」(Apple / Amazon / HMV)を語ります。

空虹桜> 月末公開なのに、月初に会話してるのは何故なんですか?

U・B> 楽屋ネタをのっけから出さない。もちろん、2/20(日)「Analogfish Tour “SNS”」@渋谷SPACE ODD(※3)の予習です。1曲目は「Miharashi」で、歌詞サイトに歌詞が公開されてないけど、フィジカルで買ってる人間には無問題!(※4)ってところで、コーラスはいつものKETTLESオカヤスシズエ(※5

空虹桜> 今回のアルバム、曲名がアルファベットと平仮名しかないの、攻めてるというかなんというか。

U・B> 軽い闇を感じますよね。

空虹桜> うん。この曲も、メロディラインは丁寧なループだし、歌詞だって「私は見ていた 夜が明けるのを 確に昨日は 明日に続いていた」(※6)なんて、見晴らしの良さを唄ってはいるけど、でも、そこはかとなく闇を感じるというか抜けが悪い。

U・B> たぶん、空虹さんの感じ方には、音楽的な説明ができる話だと思うんですけど、オイラそこは詳しくないので、単純に言えることとしては、いつもの下岡楽曲「僕と君」の唄だってことかなぁ(※7)と。世界が狭い。

空虹桜> ああ。たしかに。ここに吹き抜ける「風」を、新しいスタートと取るか隙間風と取るかでだいぶ印象は異なるし、明るすぎないせいで、どちらにも取れるのが微妙というか絶妙というか。

U・B> 歌詞が詩的で言葉数すくないから余計ですよね。あと、このアルバムの明るさというかポップさは、今回全部健太郎曲に委ねられてる(※8)ってのもある。

空虹桜> そだね。じゃあ、2曲目「U.S.O」で、まぁ、詰まらないツッコミで申し訳ないけど、「UFO」みたいな書き方するな!

U・B> とはいえ、それは思いますよね。

空虹桜> 思わざるを得ないのが現状。

U・B> あとでツッコんだ話はするけど、このアルバムの健太郎曲の中では一番「U.S.O」が好きで、それは単純にファルセット使ってないからです。ありがとうございます。

空虹桜> なんかライヴレポでボヤいてたね(※9

U・B> ええ。ともかく、この曲のサビ「君の何気ない態度で この夜は台無しに変わってしまう もう嘘みたいに 嘘みたいに」(※10)の「に変わってしまう」からはじまるコーラスが凄い好き。「に」からハモるんだ!ってのもだし、一箇所だけ「この夜を 台無しに変えてしまう」(※11)のサビがあって、ここだけコーラス無いのも好き。相変わらず、ちゃんと考えて曲作ってる信用できる!っていう。

空虹桜> 生音だけど四つ打ち感があるビートだから、余計にヴォーカルが前に出ているというか、唄のメロディが映える感じはする。

U・B> そうなんですよね。今回のアルバム全体的に、2020年代らしいシンプルなクラブソングというかポップソングに仕上がってる印象があって、アトロクの「LIVE & DIRECT」(※12)出た時、どうしてこうなったかみたいな話を健太郎がしてたんだけど、具体的な固有名詞忘れちゃったんだけど、やっぱり、アメリカのポップシーンに影響されてた。

空虹桜> そうね。シンプルな音数でポップであることは、完全に流行りだもんね。

U・B> ええ。まぁ、いつの時代も一定数存在してはいたんだけど、今だと、殊、サブスクで聴いてもらうためには重要な要素ですからね(※13

空虹桜> すでにだいぶ喋ってしまってる感あるから3曲目「Is It Too Late?」で、これと4曲目の「Saturday Night Sky」は、ホントにモダンなエレポップ本流みたい。

U・B> そうそう。まずは「Is It Too Late?」ですけど、歌詞をちゃんと読むと極めて下岡晃なんだけど、唄ってるのが佐々木健太郎(※14)だから、完全に健太郎曲だと思い込んでおりました。

空虹桜> えっ?そうなん?全然気づかんかった。

U・B> 安心してください。オイラも、歌詞カード見るまで気づかんかったから。歌詞に「改札」とか「街並」とかでると、全部健太郎曲だと思ってしまう刷り込みがあることも否定できないし。んで、この曲のサビのファルセットが苦手なんだけど、「不思議な力に守られて 思い出だけはいつもキレイなんて 今さらおもうとは」(※15)って言い方は、たしかに下岡楽曲ですよ。ええ。

空虹桜> 言われてみれば。妙に変突くっていうか、斜に構えてる感じ。

U・B> 我々、性根が捻くれてるから、斜に構えてるモノは基本的に好きじゃないですか。

空虹桜> 言い方。

U・B> で、まさか補作曲にRYO HAMAMOTO(※16)がクレジットされた「Saturday Night Sky」ですけど、これ、歌詞が英語だったら普通に洋楽のチャートに出てくる曲ですよ。

空虹桜> ベースの感じとか、エレハットとか。

U・B> エレハット?わからんけど、土曜の深夜のクラブ感があるじゃないですか。片手程度しか行ったことないけど。そんな時間のクラブ。

空虹桜> もっとクラブ遊びすればいいのに。

U・B> お前がな。あと、ホンノリ暗いんですよね。低音利いてるから。そんなとこも含めて「東京は今キラめくSaturday Night」(※17)って歌詞のジャストさね。

空虹桜> シーケンサ使ってるけど、高音はヴォーカルだけなんだよね。だから、そゆ意味ではアンタ嫌がってるファルセットは正しいチョイスだと思うけど?

U・B> ちゃうんです。わかってるんです。これは良い曲なんです。単に、俺が生理的に受け付けないだけ。だから、5曲目「Moonlight」のが好き。

空虹桜> 「Saturday Night Sky」もそうだけど、何気にお約束のドレミファソラシドが、主旋律だよね。

U・B> 佐々木健太郎といえばドレミファソラシド。でもね、それがいいの。

空虹桜> いいんだ。

U・B> たぶんなんですけど、この曲は佐々木健太郎にとってのプロテストソング(※18)なんですよ。魔法は通じないし、街の隅で漁ってるし、世界はタフで軋んでるんですよ。その中で、あなたと二人でいること、時間というか空間を共有してることの尊さは、僕らが生き延びるために不可欠なんです。

空虹桜> アンタ。相手いないじゃん。

U・B> なにをいきなり台無しにした?

空虹桜> でも、最近、お月様が綺麗だなぁとは思う程度に風流なこと考えるようになりましたよ。アタシも。次、6曲目「Yakisoba」はこのタイトルなのに名曲。

U・B> ザ・下岡晃で、たぶん単純ないい曲なら8曲目「うつくしいほし」なんだけど、好きな曲で言えば断トツで「Yakisoba」

空虹桜> 「何にもいいことない 何にもいいことなかった いい日だったいい天気だった」(※19)とか、アンタ好きそうだもんね。

U・B> ええ。もう、二言目には「いいことないかなぁ」言ってる人間からすると、このフレーズは完全に生きる術ですよ。なにもなくてもいい日だって言っていいんだからさ!なんですか?この全肯定感。

空虹桜> いいなぁ。それで肯定された気になれるのがアンタっぽいなぁ。

U・B> でしょ。しかも、そのサビが「いいことなかった」言ってるのに、ハモリが超気持ちいいの。

空虹桜> そうね。あと、なんだかんだで焼きそば作りたい欲に駆られるっていう。

U・B> ええ。フライパンで粉のソースでね。

空虹桜> もちろん、中華鍋でもいいけどね。サラダ油でね。あくまで安っぽい感じの。

U・B> ええ。それこそが「いい日だ」って曲ですから。あとね、「ああ 夕焼けの街が好きだ」と「ああ 夕焼けと君が好きだ」(※20)の2ラインは、アナログ初期の名曲である「夕暮れ」(※21)をどうしても思い起こしてしまって、2021年にしてもやっぱり、本質というか筋のところが下岡晃ブレてないなぁっていう。

空虹桜> 同じぐらい好きっていうのは、最上級の褒め言葉って言うね。次、7曲目「さわらないでいい」も肯定の曲。

U・B> そうですね。でも、個人的には今回のアルバムの中でわかりやすい形でのプロテストソングというか、「はなさない」に近い曲だなぁと思っていて、油断するとこれは差別的な曲に聞こえてしまうのかもしれないけど、違くて、これはあくまで事実と感想の唄じゃないですか。毒があるから触らなくていいし、沈黙は嫌いじゃない。だって「ときどきすべてがわずらわしいよね」(※22

空虹桜> その歌詞が平仮名なのって恣意的だよね。

U・B> ああ。そうですね。なるほど。この歌詞だけが曲の展開からはみ出してるんですけど、つまりは一番言いたいことじゃないですか。「わずらわしい」って、世間一般であまり使われなくなりつつある単語な気がするけど、感覚としては「めんどい」よりも「わずらわしい」のが、今の情勢にフィットしているように聞こえる。

空虹桜> 「めんどくさい」が他人から押しつけられてるのに対して、「わずらわしい」は状況が不利な感じかな?

U・B> おおっ。日本語できる人みたいな発言。

空虹桜> 喧嘩売ってるなら買うよ。

U・B> 前のめりな。その意味では、アルバムタイトルに対して恣意的というか、思考を停止させようとする世界に対するプロテストソングっていう。

空虹桜> さよか。8曲目はさっきチラッと名前が出てきた「うつくしいほし」で、これはドラム全部打ち込みかな?

U・B> ぽいですよね。で、これもコーラスがオカヤスシズエなんだけど、まぁ、妄想したがりなオジサンとしては、曲中の登場人物の会話は、下岡晃とオカヤスシズエの普段の会話にしか思えないわけですよ。

空虹桜> 妄想です。あくまでU・Bの妄想です。

U・B> これも「僕と君」の狭い唄ですけど、「Yakisoba」同様食事の話とか出てきて、その感じはご飯を食べることが生きることだっていう、当たり前だけど普遍的でもある事実が「遠くから見ればうつくしいひびのくらし」(※23)って、一番のサビに籠もってるよなぁと。

空虹桜> でもさ、「むかない方が大事な栄養があるの」(※24)とか言いがちな人って、それ以前に無農薬とか有機栽培に過剰な執着を見せそうだから、スープにして怯んで火は通してるだろうけど、油断すると虫とかそのまま食べてそう。

U・B> 余計なことを・・・にしたって、このメロディのポップさに対して、歌詞の日本語っぽさというか、それこそ大サビ前の「よくできた腕時計のように虚しさをばら撒き続ける針を 君はその華奢な腕で簡単に止めちゃうんだね」(※25)って、完全にサブカル男子のツボな女の子じゃないですか。

空虹桜> でも、残念ながら君の周りにはいないのだよ。そんな娘は。ざんねーん!ラスト9曲目はヤケにメロウな「Can I Talk To You」

U・B> ええ。どっかにいないですかね?俺好みで、俺のこと好きになってくれる娘。でも、無闇なヴォーカル力で、酷い話に聴こえさせないのと、サビの途中で「いえ〜」とか入れちゃうところが、健太郎の親しみやすさですよ。まったく。

空虹桜> いないけど、メロウさとは真反対とでも言わんばかりに、全然信じてもらえないし、話も聞いてもらえない、平たく言うとピンチな曲なんだよね。

U・B> ええ。さりげなく、全否定されましたけど、ピンチですよ。のっけから「選ぶ言葉で伝わってくる 君は僕を疑っている」(※26)って、女の子が隠そうともしてないってことを、まるで「俺は最初っから気づいたぜ!」的に唄ってるの、完全にアウトじゃないですか。

空虹桜> 典型的な馬鹿な男だよね。

U・B> 端から見てればコントですよ。この駄目な感じ最高ですよ。なのにメロウ。親しみやすい!

空虹桜> 端から端まで残念な言い種。んじゃ、最後まとめてください。

U・B> いちおうさ、当然、2021年の12月に発売したアルバムだから、いろいろ世俗的な意味合いは含まれないはずがないんだけど、でも、強いて言うなら、SPICEのインタヴュで、見出しは標語が編集らしく都合良いまとめ方してんだけど、晃さん「健太郎さん、そこを気にしてない……気にしてるんだろうけど、へこたれないというか。ここで健太郎さんが歌おうとしていることは、過去にあった自分の好きな生活なのか、コロナが終わったあとに来たるべき普通の生活なのか、わかんないけど。そういうものじゃない?」(※27)言ってるんだけど、シティポップブームも含めて、ちゃんとキラキラしたいなぁってのは、たしかに世界の深層心理なのかもしれないし、そこをキャッチして今の日本でセールスする音楽にした最初の部類にアナログフィッシュがいるって、面白いなぁっていう。


※1^ タイトルは5曲目「Saturday Night Sky」の頭文字:厳密にはソーシャンルネットワーキングサービスとのダブルミーニング。
※2^ アナログフィッシュ:最近は主にアルファベット「Analogfish」名義で活動している3ピースロックバンド。メンバは1999年に結成の下北系ギターロックバンド。長野県下伊那郡喬木村出身の下岡晃(Gt&Vo)と佐々木健太郎(Ba&Vo)に、斉藤州一郎(Dr)ここ用に久々SNSチェックしてたら、佐々木健太郎がパン屋の人になっててビックリ。
※3^ 2/20(日)「Analogfish Tour “SNS”」@渋谷SPACE ODD:ライヴレポはこちら(UP時点では未公開です)
※4^ フィジカル:配信サイトでサブスクや購入したモノではなく、物理媒体で購入したモノを指す。
※5^ KETTLESのオカヤスシズエ:KETTLESは日本の2人組ロックバンド。オカヤスシズエはドラム。過去にアルバムレヴュをしているので、興味がある人は。
※6^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※7^ いつもの下岡楽曲「僕と君」の唄:下岡晃作詞の内、とくに愛情がバックグラウンドにある曲は、ある種セカイ系のように「僕と君」の日常が唄われる。
※8^ 今回全部健太郎曲に委ねられてる:実際は下岡曲もポップなのだけれど、佐々木健太郎作詞曲のポップさに引きずられているというか、乗っかっているのでこの発言。
※9^ なんかライヴレポでボヤいてたね:愚痴ってるレポはこちら
※10^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※11^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※12^ アトロクの「LIVE & DIRECT」:TBSラジオ「アフター6ジャンクション」19時代のライヴコーナ。
※13^ サブスクで聴いてもらうためには重要な要素ですからね:U・Bはサブスクで聴かない人なので厳密には知らないのだけれども、人の話によると、メインは圧縮音源の配信なため、圧縮しても音が潰れない音質の音源の方が良いとされている。
※14^ 歌詞をちゃんと読むと極めて下岡晃なんだけど、唄ってるのが佐々木健太郎:後述するSPICEのインタヴュによると「"曲作りも、晃が作詞で僕が作曲という、「Is It Too Late?」みたいな曲も作れたし」とのこと。
※15^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※16^ RYO HAMAMOTO:近年、「アナログフィッシュ第4のメンバ」と呼ばれるサポートギター。2010年以降のアナログフィッシュは下岡晃がギターを弾かない楽曲も増えてきたので、サポートメンバを入れることとなった。
※17^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※18^ プロテストソング:政治的抗議のメッセージを含む歌の総称。
※19^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。ちなみに、このフレーズは俺にとって「Life goes on」の「遠回りじゃないよ 真っ直ぐな道を蛇行しているだけ」と同じぐらい人生にとって大事なフレーズ。
※20^ 直前の鉤括弧2つは歌詞より引用。
※21^ 夕暮れ:全国流通版アルバム「アナログフィッシュ」の4曲目。当時のレヴュはこちら
※22^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※23^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※24^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※25^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※26^ 直前の鉤括弧は歌詞より引用。
※27^ SPICE:eplusが運営するエンタメ特化型情報メディア。鍵括弧内は「Analogfish、3年ぶりのニューアルバム『SNS』が、「今の時代に必要な音楽に」なった理由」の引用。

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