第397回 PAYDAY

空虹桜>誰がどう考えても去年のNo.1ディスク。HIPHOPシーンに限らず、日本の音楽シーンを革新する労働
       者たちTHE HELLO WORKS※1)の1stアルバム「PAYDAY」(Amazon/iTS)の全曲レヴュ。
U・B  >1曲目「J・O・B」でインストゥルメンタル(※2)なJOBこと仕事
空虹桜>直訳直訳。
U・B  >平たいなぁ。ツッコミ。ちなみに、ジャケ絵&挿絵はスキカウ(※3)ファンなら全員知ってる白根ゆたん
       ぽ先生
空虹桜>なんかねぇ、アニと同級生らしいよ。桑沢で(※4)。
U・B  >出た!桑沢。なんですか?あそこのサイコっぷりというか、異能っぷりは。
空虹桜>結局さ、究極なところでは相応しい場所さえきちんと設ければ相応しい才能が集
       まるってことだよね。(※5
U・B  >曲自体はいかにもスラマンだけど、いろんなジャンルがごったに鳴っててよくわからないという。
空虹桜>ただ、高揚感たっぷりで、聴いてるだけで上がってくるよね。テンションが。
U・B  >そのテンションで乗り込む2曲目が「SAIMIN'」俺的にはサブリミナル効果 チョコレート
       効果 幸か不幸かお腹急降下※6)に尽きるのですが。
空虹桜>アタシ的にはタケちゃん棒読み アンビリバボーに大爆笑。(※7
U・B  >逆に口頭では伝えにくいその濃度 まるで味平のブラックカレー※8)は「包
       丁人味平」を知識としてしか通過してないから、今ひとつツボに入らず残念無念。
空虹桜>そもそもさ、入りのトランペットからしてたまんないよね。「パー」鳴った瞬間に「ホー」とか言って踊り始める変人
       だらけな。
U・B  >その言い回しが既に変人な。
空虹桜>でも、わかるっしょ?
U・B  >そりゃ、俺はライヴも見てるし。
空虹桜>音楽の催眠感にサビのリリックで浮遊感 多幸感 脱力感 高揚感 だんだん煽る
       楽団※9)って、自分たちで宣言までしちゃってるじゃない。実際その感覚が音楽に寄り添っ
       てるんだけど、この手の宣言ってストレートにヒップホップじゃない。
U・B  >けど、あくまでこの音楽は楽団
空虹桜>なんだよね。べつに生音でラップするのは新しくもなんともないんだけど、このアルバム
       全編を通して画期的に新しく聴こえるんだよね。
U・B  >1曲目んとこでもチラッと言ったけど、スラマンのごったに鳴るごった煮音楽が効いてると思うんですよ。文化
       の坩堝たる日本的というか。で、3曲目の「HIGH & FAST」の感じがさらに際だててるかと。
空虹桜>THE HELLO WORKSのコンセプトが後付けだとしても「労働」ってとこにあるのは自明として、「The 9th Sense」
       (※10)ん時からだけど、ANIとかめんどくささの象徴みたいな人なのに、便利であることに
       アイロニィをぶつけてくる。
U・B  >そこはホラ、みんなそんな必死に働かなくてもなんとかなるっしょというANIの達観
空虹桜>それもあると思うけど、もう一側面で、みんなそんな必死で働いてるからって俺までもっと働けって
       言わないでねっていう厭世感を感じるんだよね。
U・B  >ああ、言いそうだ。
空虹桜>もちろん、こうやってアタシら喋ってるのはスルーされる野暮な若ぇのかもしれないけれど。
U・B  >そうそう、曲名で思ったんだけど、スチャが自分たちでトラック作ってる時よりBPMが速くね?生音なのに
       アルバム全体的に
空虹桜>たしかにたしかに。それこそあれだよフレッシュなフレーズ生ループで ファンクネス
       違うルートで※11)だよ。
U・B  >なんかうまいこと持ってかれたような。次、4曲目は1sk(※12)お気にの「SHINE!」たしかに頭ん中でループ
       しやすいタイプの曲。
空虹桜>だって何したかったんだろう 何夢見たんだろう※13)だからね。お前ら40に足かけとい
       て今さらなにを!っていう。
U・B  >羊がメェメェ ヘェヘェ オーライ ある時 気さくな40代※14)って適当だもん
       な。リリック。
空虹桜>だから、改めてタイトル見るとスゴイなんかブラックジョークじゃん。未来はなんも明るくな
       いやっていう。
U・B  >で、かぶせてくるのがこのアルバム最大のキモ「プロジェクト"HELLO"」これだけでも買う価値あり。
空虹桜ホントに田口トモロヲか!っていう。(※15
U・B  >全体的に笑えるのだけど、やっぱりハナちゃん(※16)ところが、聴いてるこっちがそれ言って大丈
       夫?的な。
空虹桜>リリーさん(※17)とこに出てたボーちゃん×ハナちゃんインタヴュによると、ロボ宙はホントにはロボじゃないけ
       ど、スラマンの件は食卓しんみりするらしいから。
U・B  >ヘタなお笑いより自分を切り売りしてる。
空虹桜>すべらない話ならともかく、本の帯に泣ける書かれちゃお終いだよね。お笑いの分際で。
U・B  >うん。あと、やっぱり根本的なところで、トモロヲがNHKでああいうシリアスな番組のナ
       レーションしてたのがおかしいという。
空虹桜>今さら!
U・B  >生活は苦しかったとかお金が無いだの家賃が払えないだの、マジ声で言えるハズが
       ないもん。普通。(※18
空虹桜>そこはプロですから。で、ここからカッコ良く入ってくるのが「6 DIMENSIONS」で、きちんと6曲目
U・B  >ああ、そゆ数字的なとこは外さないと。
空虹桜妥協しないクラフトマンシップ※19
U・B  >上手いこと言った的な。個人的に都道府県言ってるのに椴法華聞こえて困るんですけど。(※20
空虹桜>どーでもいいから。そういうの。
U・B  >いや、音的には一番このアルバムでカッコいいから、そっちに気が行ってる分日本語の
       リスニング力が弱くなっるっていう。
空虹桜>なんつー屁理屈。
U・B  >曲名だってスラマンの人数に合わせてってんでしょ?きっと。
空虹桜>おそらく。それぞれの見せ場みたいのがちゃんと用意されてる感じだよね。
U・B  >いかにもな単調なラップのループにみせかけて、実は違う的なとことかもさすが感
空虹桜>ライムのポイントがさりげなくスライドしてってるからね。
U・B  >んで、聴かせどころというか踊りどころにさしかかる7曲目「Discoteca Pacifica」歌詞カード見たら無
       茶苦茶短いんでやんの。
空虹桜>んーと・・・12行。曲は6分超えてるのにね。
U・B  >RSRで見たときはビリーの真似してた記憶しかないけど、実際ホントにラップしてなかったという。
       しかも当時の仮タイトルが「中米
空虹桜>キィボードの「ポッポッポッポポーポポッポ」のとこが中米っぽくない?※21
U・B  >えーと・・・問題の8曲目
空虹桜>やっぱりスルーですか。
U・B  >わかってたなら話の腰を折らないでください。問題の8曲目が皆さんお待ちかね「今夜はブギーバッ
       ク (Re-play) feat. ハナレグミ」で、なんと10分オーヴァ!
空虹桜>最初1分ぐらいなんの曲かわかんないよね。
U・B  >たぶん、そこでハナレグミ呼び込むんでしょ。ライヴ的には。この曲、来月のブギーバック特集
       メインにくっちゃべりたいから、ここではハナレグミ関係ないとこをすこし解説していただきたいんですが。
空虹桜>ったら、やっぱ歌詞変わったとこかな?(※22)でも、正直これはさ、スラマンがカッコいいというかセクシィなト
       ラックに仕上げたから、これの小沢君がヴァージョ
       ン聴きたいっていう本音しか出しようがないよ。
U・B  >言っちゃった。だからって、小沢君を召還できるわけではないという。
空虹桜>そこはねぇ。小沢君サカヲタだから、ロナウジーニョとか餌に釣り出せばイケるかもしれないけど。元は取
       れないよね
U・B  >取れない取れない。そこまで売れないから。
空虹桜>ねぇ。って、それ言っちゃお終いだけどね。
U・B  >そんな売れない彼らのニートには痛い9曲目「ワークフロウ」は本当なら名刺代わりの1曲。
空虹桜>企画ネタとしてはわかりやすいよね。ユニット名決まった時に、とりあえずそれっぽい曲を
U・B  >仕事があるだけでもありがてぇって 世知辛いよね※23)ってアニのラップが
       に浸みるという。
空虹桜>好きでニートなっといて。
U・B  >言うな。
空虹桜>アニがラップしてるから余計に浸みるとは思うんだけど、アンタがひっぱてきたとこのあとに出てくる
       「WORK WORKさせてよ」って、パッと目でダブルミーニングだけどいろいろ深読みできて
       かなり好きなリリック。
U・B  >なんでコレで売れないかなぁっていう悲哀があちこちに溢れてる。
空虹桜>音楽業界へのアイロニィだし、ラップという狭いシーンへのアイロニィだし、日本社会にたいしてのアイロニィだ
       し、リスナへのアイロニィだし、なにより自分たちを卑下して見せてて、こんだけ掛けてても今のスチャの曲から
       比べれば全然ストレートに見える
U・B  >ストレートさ的には「大作戦」とか「タワーリングナンセンス」?(※24
空虹桜>うん。もちろんあの頃より深いんだけど、わかりやすさ的にはね。
U・B  >わかりやすさにプラスして疾走感まで付けちゃったのが最後の「EVERY SINGLE DAY
空虹桜キャッチィさではこの曲が一番だとは思うんだよねぇ。
U・B  >ライヴ的にもピョンピョンと跳ねさせられました。
空虹桜>アニのラップもいいんだけど、ホント最近のロボ宙は真面目だとわかるラップ。
U・B  >数十階のビルから覗く 行列大群 人の群れ 群れたくないから 脇道
       測道 ついつい王道避ける癖※25
空虹桜>アタシが真面目だって言いたいわけじゃないんだけど、無茶苦茶わかるよね。アニとかだとナチュラルに
       脇道進む※26)んだけど、意識して王道避けてるっていう。
U・B  >むしろ、アニの場合は脇道こそが王道だと思ってる節すらある。
空虹桜>あるある!
U・B  >そのクセ慢性的な欠乏症※27
空虹桜>だからこそ最後にボーちゃんが地味すぎるしんどい日々は きっとド派手な大サビ
       の前振り※28)ってまとめちゃう。
U・B  >ここの引き取り方も上手いよなぁ。
空虹桜>カタルシスあるよね。
U・B  >さて、最後にまとめましょうか。
空虹桜>まとめるもなにも、問答無用でカッコいいでしょ。もちろんさっきも言ったかもしんないけど、生音で
       ラップなんて過去に何千何万といたわけじゃん。にもかかわらず、このアルバムが新しいのは、HipHopという
       ジャンルがサンプリングとループで構成されるジャンルであるなら、音楽的な歴史やらセンスや
       らを全部ひっくるめて取捨選択、つまり、サンプリングした上で成り立ってるからだと思う。もし
       かしたら、アタシらが死んだぐらいにレア・グルーヴ扱い(※29)されるかもしれないけど、ポピュラ音楽
       という概念に新しいページを付けたバンドがTHE HELLO WORKSなん
       じゃないかなぁ。(※30


※1 THE HELLO WORKS:スチャダラパー+SLY MONGOOSE(ほとんどの場合、本文中では「スラマン」と愛称で呼んでます)+ロボ宙のユニット。それぞれについてはそれぞれ個人で調べるように。まぁ、スチャダラパーとロボ宙のレヴュは過去クロスフェーダでやってるんだけど。
※2 インストゥルメンタル:Instrumental。唄無しの曲。
※3 スキカウ:U・Bが大好きなバンドスキップカウズのこと。過去にいろいろレヴュしてるんでこっち見ていただけるとありがたい。
※4 桑沢:Wikipediaで卒業生見るとびっくりすることで有名(ヲイ)な桑沢デザイン研究所のこと。ミソはみんな東京造形大学には行ってないことか?ちなみに、この同級生情報は空虹さんが九州のFMのストリーミング放送かなんかで手に入れた情報。
※5 個人的には「500文字の心臓」ってそんな場所になってるんじゃないかと思ってます(by 空虹)つか、ウチ(gennari.net)こそそゆ場所にしたいんだが(by U・B
※6 注釈直前の拡大部は歌詞より引用。
※7 拡大部は歌詞より引用。
※8 拡大部は歌詞より引用。
※9 拡大部は歌詞より引用。
※10 THE 9th Sense:スチャダラパーの9thアルバム。当サイトでは第205回でレヴュ済み。具体的には6曲目の「VS.サービス」の歌詞にある「あるといいながありすぎます」みたいな。
※11 拡大部は歌詞より引用。
※12 1sk:gennari.netの常連。高校でU・B空虹のクラスメイト。
※13 拡大部は歌詞より引用。ちなみに、空虹さんが引用したとこはハナレグミが唄ってます。
※14 拡大部は歌詞より引用。ちなみに、「ある時 気さくな40代」はANIとハルカリが一緒にラップしてます。
※15 田口トモロヲ:パンクバンドばちかぶりの中の人だった人。あるいはライヴ中にウンコしてた人。ただ、ここでは「プロジェクトX」でナレーションしてたヴァージョン。
※16 ハナちゃん:SLY MONGOOSEのベーシスト。笹沼位吉の愛称。
※17 リリーさん:THE HELLO WORKSが所属する事務所の社長であるリリー・フランキーa.k.a東京タワーのおでんくんのこと。
※18 拡大部は歌詞カードに出てないけど歌詞より引用。
※19 拡大部は歌詞より引用。ちなみに、この曲もYEAH!とハルカリがダルそうに言ってます。
※20 「都道府県」は歌詞より引用。椴法華(とどほっけ):北海道渡島支庁南東端にあった村。べつに法華経は関係ない(そりゃなぁ)2004年12月1日、函館市に編入された。
※21 気がついたら注釈入れるとこ無かったんでここで無理矢理。この曲では「HELLO」とか「WORK」でハルカリがコーラスしてます。
※22 「フリースタイル具合にギザ泣けたス」とか「これだみんなメモれ コピペ」とか。ちなみに、この曲でもハルカリがコーラスしてます。
※23 拡大部は歌詞より引用。
※24 大作戦:スチャダラパーの1stアルバム「スチャダラ大作戦」のこと。第79回でレヴュしてます。タワーリングナンセンス:スチャダラパーの2ndアルバム「タワーリングナンセンス」のこと。第71回でレヴュしてます。
※25 拡大部は歌詞より引用。
※26 王道だとか脇道だとかの判断をしてるんじゃなくて、「この角曲がれるけど、曲がっとく?」的な判断をするタイプだって話。そのあとU・Bの話に頷いてるのは、目的地で他の人と合流してから「アレ?他にも道あったの?」とか、自分曲がったの忘れてさも言いそうだという。サブカル界隈はこの手のナチュラルさを持ってる人間が上方階層にウヨウヨいて、サブカルをサブカルたらしめていると思う(by 空虹
※27 拡大部は歌詞より引用。
※28 拡大部は歌詞より引用。ホントにこの歌詞に続いてサビになります。いかにもHipHopないいカタルシス。
※29 レア・グルーヴ:1970年代にアメリカ各地で録音された、現在では比較的判り辛く見つけ難いジャズ・ファンク、ファンク、ソウル、ソウル・ジャズ、ジャズ・フュージョンの曲を広く意味する用語(Wikipediaからのコピペ)空虹さんからそんな単語が出てきて動揺してる俺(苦笑)
※30 空虹桜73行(!!!)U・B61行での勝ち。しっかし、ブギーバックの話に力を入れなかったから本文は短め(!?)だったけど、注釈30個って・・・過去最多ではなかろうか・・・


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